2009年03月29日
Such a wonderful night.
その2人はあまりにも詩的で好ましく、思わず僕は息をするのも忘れていた。
必ず雨が降る週末の夜。
僕は何かに捕らわれすぎて、自分の穴に自分で堕ちてしまっていた。
こんな夜は何を飲んでも上手く酔えない。煙草も美味しくない。
ただただ雨と一緒に降り注ぐ今に溺れようとしていた。
1人傘も持たずに外に出る。
3月も終わりだというのに冷たい雨。
コンビニで煙草を1箱買い、いつもの店へと向かう。
チンザノを飲みながら煙草を吸い
何度目になるか分からない程読み返した本を読む。
店内はカウンターに座るカップルとオーナーの
小さな笑い声だけが聞こえていた。
不意にギターの音がして、本から視線を上げると
彼氏がゆっくりとやさしくギターを弾く。
それに合わせ彼女が本当に楽しそうに口ずさむ。
初めて聴く曲だったけれど、甘く優しいそのメロディーと
彼女の歌声は僕の中心にするりと入り込み、僕は軽くトリップした。
目を瞑り、思考をこの空間に溶かしだす。
つかえていた何かが少しずつ僕の体から抜けていき
今更アルコールに酔いだした。
すっかりご機嫌になった僕にカウンターの3人が微笑みかける。
僕はちょっと照れたように笑い、ごまかすようにまた煙草を吸い始めた。
あぁ、こんな夜がまた迎えられるのなら、僕は僕としてやっていける。
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10:34
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2009年03月27日
spring has come.
着いた途端、2人は歓喜の声を上げた。
あまり天気はよくなかったけれど、2人でカメラを片手に出掛けた今日。
一面に競うように咲くチューリップに彼女は子供のようにはしゃいでいた。
いつしかつないでいた手を放し、カメラとチューリップに夢中な彼女。
僕はちょっと冷たい空気にショールを巻き直しながら
彼女の髪がいつの間にか胸の辺りまで伸びている事に驚いた。
僕と出会った頃は、くるんとしたボブだったのに。
それだけ2人の時間が重なり合ってきている。
『思い切って来てよかったね。こんなにもきれい』
少し高揚した面持ちの彼女がすごくきれいに見えた。
『そうだね。一緒に見れてよかった。また来年も来ようね。』
『うん、ずっと一緒に来よう』
そう言うと彼女はまたチューリップへと駆け出す。
僕はその姿に確かな幸福を覚える。
あぁ、春っていいな。
うーんと伸びをする僕に、彼女がこっそりカメラを向ける。
最高の場所に最高な時間。そして最高な彼女。
何年先もずっとずっと、またこの場所に一緒に来られたらいいな。
なんてちょっとセンチメンタルな僕は、それを隠すように
彼女にカメラを向けた。
時は流れど、想いは永遠。
Posted by nico at
23:39
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2009年03月23日
May I boast?
心底驚いたとき、人は笑いがでる。
それを体感させてもらった。
金曜の夜、後輩がしつこく飲みに誘うのでちょっと面倒くさいな。
と感じながら出掛ける。
後輩に半ば手を引かれながら店内に入ると、クラッカーの音・おと・オト。
あぁ、やられた。
僕のサプライズ退職祝い。
僕はこの3月で10年勤めた会社を退社する事になった。
目指すものが明確に定まったのだ。
何も今の仕事が嫌いになった訳じゃない。
そこそこのやりがいに、僕には分不相応なくらいの環境。
でも、やりたいことに目をつぶる事は出来なかった。
貸し切られた店内には僕と関わって下さった顔・かお・カオ。
もともと涙腺の弱い僕はすでに泣きそうだった。
乾杯して、料理がどんどん出てきて、ひとりひとりと話をして。
僕は終始胸が一杯で、体がフワフワと浮いていた。
全くの現実味のない幸せな時間。
たくさんの思い出と
たくさんの笑顔と
そして少しの寂しさと
いろんなモノが洪水のように僕を襲い
とうとう僕は泣き出した。
ありがとう。
本当にありがとう。
想いを言葉にするのが苦手な僕だから
上手い事なんてなにも言えないけれど
ただただありがとう。
そして今夜くらいは自慢していいかな???
僕はこんなにも素敵な人々に囲まれて生きている。
Posted by nico at
15:24
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2009年03月18日
Be new.
久しぶりに廊下で会った彼女は
肩まであった髪をばっさりとショートにしていた。
いったいどういった心境の変化??と僕が尋ねると彼女は曖昧に
でも嬉しそうに微笑んだ。
僕と彼女は同期。ただそれだけの関係で
別に互いに恋愛感情を抱く事もなく、どちらかと言えば
仕事に挑む戦友といったかんじの間柄。
『あのねー。まだみんなには言っていないんだけど。』
彼女の目がいたずらっぽく笑う。
『わたし、あかちゃんができたの』
恥ずかしそうに、でも嬉しそうに廊下で耳打ちされ
僕は一瞬なんのことなのか分からなかった。
『昨日、きちんと病院で看てもらってね。
こーんなちっちゃいハムスターみたいのがぽこぽこ
動いてたの』
右手の親指と人差し指で1センチにも満たない幅を作る。
あかちゃん。彼女に??
僕は思わず彼女を頭から足の先まで見つめる。
この華奢な体の中に、もうひとつの生命体があるなんて。
『あ、あの・・結婚してたっけ??』
情けなくもしどろもどろな僕の肩を彼女は思いっきりはたく
『やだー、先月入籍したって言ったじゃない。
挙式はまだ先の予定なんだけどね』
薬指のリングを誇らしげに僕の目の前に突き出す。
『あーっ!!だったねぇ。
おめでとう!!!いやー、しかし・・・ねぇ・・・』
仕事に行き詰まって一緒にやけ酒を飲んだり
手がけた仕事を褒めてもらったと互いに自慢し合ったり
そうやって僕らは一緒に戦ってきた。
とたんに彼女が神々しく神聖なものに見え
僕はガラス細工のようにそっと彼女の手を取った。
『きついときはきちんと言うんだよ。
無理しないで。』
とたんに彼女が吹き出す。
『あなたがまるで旦那さんみたいね。
でもありがとう。頼りにしてるよ。』
そう言って彼女は帰っていった。
窓の外を見ると新緑が芽吹き始めている。
さくらの開花ももうすぐ。
新しいいのちが無事に産まれてきますように。
僕は祈りにも似た気持ちで空を見上げた。
Posted by nico at
22:17
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2009年03月16日
Spring is waited for.
昔ながらの定食屋さんで昼食をとっているときに
ふと気がついた。
恋をしなくなってもう何年経つだろう。
僕も昔はそれなりに『恋』という微熱に冒され、酔いしれていた。
メールに一喜一憂したり
夜中に会いたくてたまらなくなったり
彼女の事を考えるだけで涙がでそうになったり
そんな恋もいつの間にか遠い過去のものになり
おぼろげにしか彼女の笑顔も思い出せなくなってきた。
毎日楽しいし、充実もしている。
友人にも恵まれ、珈琲を飲みにいくくらいのガールフレンドなら
不自由していない。
でもどこか空虚な日々。
彼女は今、幸せなんだろうか。
誰かの隣で笑っているのだろうか。
僕の事をたまには懐かしんだりしているのだろうか。
そんな事をぼんやり思いながら昼のニュースと一緒に
焼き魚定食を流し込む。
美味しいとか美味しくないとかいった次元を越えた食事。
外に出るとすっかり春めいた天気に僕は目を細める。
春はこれだから怖い。
浮き立つけれど、なぜだか寂しい気持ちにさせるから。
Posted by nico at
22:31
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2009年03月15日
chupachups.
土曜の夜。もう日付が変わってしまったから正確に言えば日曜日。
僕はとあるカフェのカウンターに1人座っていた。
いつもふらりと訪れたくなる場所。
旨い珈琲と白熱灯の下でくゆらす煙草。そして生産性のない会話。
そんなモノを求めて僕の足は自然と向かう。
いつもの通りカウンターで珈琲を飲みながら煙草を吸って
オーナーとくだらなくも愛おしい会話を交わしていると
1人のオンナノコが入ってきた。
きっちりと隙なくメイクされたその横顔はちょっと僕の苦手とする
部類のコだった。
一席開けてカウンターに座り、珈琲を頼むと携帯を開く。
なにやら神妙な面持ちで携帯を見つめる姿にこちらの空気も少し緊張した。
携帯をぱちんと閉じ、目をつぶりふぅっと息を吐く。
やっぱりな。と言わんばかりの顔だった。
『やっぱりふられちゃったみたい。』
オーナーから珈琲を受け取るときに隙のない横顔とは真逆の
弱気な声が出る。
僕は素知らぬ振りで珈琲を飲んだけれど、彼女が気になって仕方なかった。
何もこんな寒い日に、しかもホワイトデーに別れを告げなくても
いいじゃないか。と僕は他人事なのに心の中で毒づく。
白熱灯の下の彼女が小さく見えて僕はいたたまれない気持ちになった。
ふとポケットに手を入れるとチュッパチャップスがひとつ入っていた。
クラブに行く時の僕の相棒。
煙草の吸い過ぎを防ぐ為に必ずポケットに忍ばせていくのだ。
スツールを降りて、お会計を済ませるときにそのチュッパチャップスを
ひとつ彼女の前にことり。と置いた。
彼女は不思議そうな目で僕を見上げる。
『ホワイトデーだから。』
すぐに彼女は笑顔を作りありがとうと呟いた。
白い息とともに僕は夜空に呟いた。
どうか神様。
彼女をせめてチュッパチャップス1個分だけでもいいからお救いください。
Posted by nico at
22:18
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2009年03月14日
For three hours in the back.
何となく使いこなせるようになったカメラで撮った写真を
フローリングの上にばらまき僕は悩む。
今日はホワイトデー。
彼女に写真のプレゼントをすると言っていた手前、最高の
1枚をあげたい。
彼女のカメラの腕前は玄人はだしで
ど素人の僕の写真では見劣りしてしまうのは目に見えている。
それでも彼女はきっと満面の笑みを浮かべ
僕にありがとうと言ってくれる。
きっとそう。
フローリングの上に広がった花畑を僕はにんまりと眺める。
想う相手がいる。
その相手にプレゼントを渡せる。
きっと相手は喜んでくれる。
そう考えただけで僕の頬はますます緩む。
さあ待ち合わせまで後3時間。彼女の笑顔まで後3時間。
Posted by nico at
11:41
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2009年03月11日
Weight of ten years.
仕事帰りにたまたま通りかかった街並に軽くショックを受けた。
僕が10年前に初めて一人暮らしをはじめたその街は
その趣を大きく変えていて僕は月日の重さに愕然とした。
愛想のいいおばちゃんがひとりでやっていた酒屋はコンビニとなり
小さなお花屋さんはコインランドリーへと姿を変えていた。
おじさんとおばさんが2人でやっているパン屋さんだけは
そのままの姿で残っていて僕は思わず入る。
昔と変わらないパンのいい香りに満ちている店内を
トング片手に見回す。
当時の彼女が好きだったくるみパンが昔と値段も変わらず
そこにあった。
彼女はここのくるみパンが大好きで、僕の部屋に訪れる度に
買ってきてくれた。
ロールパンくらいの大きさにくるみがぎっしりと入っていて
これと珈琲が僕らの朝の定番だった。
『お兄さん、昔よく買いにきてたよね』
レジにいたおばちゃんに話しかけられ驚く。
『はい。久しぶりに来てみたらこのあたりが変わってて
少しショックでしたよ』
お金を払いながらいうとおばちゃんはちょっと笑って呟いた。
『人がどうしても年を取るように、街も年を取るからね。
また近くに寄ったらいらっしゃい。』
そういっておばちゃんは昔みたいにラスクを1袋おまけしてくれた。
僕はなんだか泣きそうになった。
小さい頃、遊んでいたらいつの間にか日が暮れて友達が先に帰ってしまい
公園に1人取り残されたような気分。
おばちゃんの優しい笑顔がまるで母親のようだった。
『はい。また来ます。ありがとうございました。』
僕はそう言ってパン屋さんを出る。
僕の10年。
この街の10年。
そしてこれからの10年。
どれも儚く、大切な10年。
Posted by nico at
16:10
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2009年03月09日
Reason why I work.
月曜日からいきなり残業は辛すぎる。
ネクタイをゆるめ僕は煙草に火をつける。
年度末だから仕方がないとはいえ、いきなり週の始まりから
この調子だと正直テンションもモチベーションも下がる。
キーボードとにらめっこしても何もよい考えは浮かばず
それどころか見たかった番組の予約録画を忘れた事に
心底ショックを受けている。
昔のフォルダを開く。
大分前に僕が作った企画書。
何気なく目を通すとあまりにも陳腐で我ながら苦笑した。
でもそこには今の僕にはないものがあった。
僕が働く理由。
もちろん生活のため。
でもそれ以外にも何かがあったはずなのだ。
デスクトップに写り込んだ疲れた僕。
その画面の先には青二才な僕が青二才なりに
一生懸命作った企画書。
昔の自分に申し訳ない気がした。
言葉の一文字、一文字に驚くくらいの想いを込めていたあの頃。
あの頃に戻れはしないけれど、あの頃を越える事はできるはずだ。
煙草をきゅっともみ消す。
眼鏡の奥はずきずきと痛むけれど、なぜだか僕はどこまででも
やれる気がした。
僕を越えられるのは僕だけだから。
Posted by nico at
22:41
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2009年03月09日
Standard for two.
自分へのご褒美へと新しくカメラを買った。
前々から欲しかったGR。
さっそくもって散歩に出掛けたものの
いまいち使い勝手が分からず僕は途方にくれながら
ふらふらと歩いた。
最近いまひとつ天気がよくない。
少し早めの菜種梅雨。
雨が降ると憂鬱だけれど四季がある日本に心底感謝する。
歩き疲れて入ったファストフード店に彼女を呼び出す。
パーカーにデニムで現れたカメラ好きの彼女は
挨拶もそこそこに僕のカメラに食いつく。
子供のように目をきらきらと輝かせてカメラをいじる彼女。
すぐに使い方をマスターしたようで僕に得意げに教える彼女。
『なんかね。すごく嬉しいの。
趣味を共有できるってすごく貴重じゃない?』
僕に教えながらへへと笑った。
たまに見せる子供みたいな笑顔に僕はきゅんとする。
『来週のホワイトデーまでには使いこなして
僕が撮った写真をプレゼントするから。』
『うん。楽しみにしてるね。』
彼女が笑う。僕も笑う。
これからどれだけの事柄を僕らは共有していけるのだろう。
共有こそがふたりの標準。
Posted by nico at
00:27
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2009年03月07日
It cries, and it laughs.
今日僕は31歳になった。
久しぶりに雨が降らなかった休日。
僕は彼女と出掛けた。
特に行く当てもないゆっくりとしたドライブ。
すっかり春めいた気候につられ、彼女はあわいギンガムチェックの
ワンピースを着て助手席にちょこんと座り、車窓を嬉しそうに眺める。
その姿に僕は休日の香りを感じる。
『ねぇ、30代ってどう??』
『どうって楽しいよ。少し重りが軽くなった気がする。』
ふーんと呟いて、彼女はまた車窓を眺める。
BGMは僕の好きなくるりの『ばらの花』
ほんの少しの儚さを含んだこの曲を聴くと僕は
旅に出たくなる。
『手を出して。』
途中立ち寄ったコンビニの駐車場で彼女はいたずらっぽく笑う。
おずおずと手を出すと懐かしいチョコレートをそっと置かれた。
『プレゼント第1弾。サーティーワンおめでと』
僕のリアクションをにやにやしながら伺っている。
どうしよう。
正直、ものすごく嬉しい。
『今日は31回あなたを笑わせてあげるね』
彼女のきれいに切りそろえられたボブの毛先がくるんと跳ねる。
さっき聴いていた『ばらの花』の歌詞が頭の中でリフレインする
安心な僕らは旅に出ようぜ
思いっきり泣いたり笑ったりしようぜ
その通り。
僕は彼女と一緒ならどこまででも安心だ。
思いっきり泣いたり笑ったりできる。
『あと30個。期待しているから』
僕の緩んだ頬を彼女がつねる。
痛い。この満ち足りた気持ちは夢ではないから。
Posted by nico at
23:41
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2009年03月06日
Let's go to the movie theater.
久しぶりに訪れた映画館はやっぱりむせ返りそうなくらい
キャラメルポップコーンの香りで溢れていた。
今一番人気の映画。
金曜のレイトショー。
スクリーンに釘付けな彼女。
僕はネクタイを緩めながら映画館の空気を楽しむ。
初めてのデートも考えてみれば映画だった。
お互い遠慮し合って、あまり見たくない映画を選んだ僕らは
2人とも途中で熟睡してしまった。
だから僕らはきっと上手くいっているのだろう。
映画も中盤戦。
涙もろい僕は花粉症のせいにして目をこする。
彼女はそんな僕をちらりと横目で見て笑う。
だって彼女の前。少しはかっこつけていたいのだ。
盛大に泣いて笑った僕らは自然と手をつないで映画館を出る。
『思いっきり泣いたり笑ったり、2時間足らずでいろんな
経験が出来るよね』
目をきらきらと輝かせ彼女が言う。
『またこようね』
僕はそう返事をする。
映画を観るのは彼女じゃなきゃだめなのだ。
だって、泣き顔を見られてもいい相手は彼女だけだから。
Posted by nico at
23:20
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2009年03月03日
It walks at night.
飲み会の帰り、ふらふらと機嫌良く歩いていたら偶然彼女と会った。
同じく飲み会の帰りらしい彼女は頬をほんのりと桃色に染めていて
いつもより可愛く見えた。
ちょっと立ち話をしていたら、ついつい話し込んでしまい
お互い体も冷えてきたのでファストフード店へ逃げ込む。
暖かいけれど薄い珈琲を飲みながら僕らはとりとめのない
会話を続けた。
中学時代からの親友達と半年に1回程度集まって飲む事。
昨日買ったワックスが久しぶりにアタリだった事。
明日は特に予定もないからのんびり過ごそうと思っている事。
そんな事を彼女は楽しそうに話す。
僕はそんな彼女を愛おしいな。と思った。
ファストフード店を出たものの、終電をとうに乗り過ごした僕らは
当てもなく歩いた。
ほんの少し遠慮がちに開いた2人の距離。
この距離を縮めたくて仕方なかったけれど、これが酔いに任せての
ことなのかどうなのか判断のつかない僕は、ただただ平行に歩く。
彼女の左肩が緊張しているのが夜の冷たい空気を通して伝わってくる。
末端冷え性だと言っていた彼女の手を握ったらどんなリアクションするだろうな。
と夜空に白い息を吐きながら考えたりもした。
まるで中学生に戻ったよう。
もう子供でもあるまいし、手くらい握ってしまえばいいものの
変な部分だけ大人になってしまった僕は、全ての行動に理由を付けようとしている。
そうしないと怖いのだ。
もし、彼女に手を振りほどかれたら。
もし、彼女がちょっとでも眉をひそめたら。
もし、彼女が何も言わずに帰ってしまったら。
ポケットに突っ込んだ手がかすかに震えている。
男はいつまでたっても子供なのだ。
言い訳にしか過ぎないのかもしれないけれど。
Posted by nico at
22:51
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2009年03月02日
In your side and evening.
久しぶりの快晴に恵まれた日曜日はあっという間に過ぎて行った。
たまった洗濯物を片付けたり、部屋のクワズイモと日光浴したり
たまったDMに目を通したり。
なんだかんだと動きながらも目の端で携帯をとらえていた。
彼から連絡がくるんじゃないのかな。と感じていたから。
ここ最近、彼はよく意識が抜け出ている事がある。
それは空虚とかでもなく、ただ思考の波にとっぷりと
はまっているようで、特に心配はしていないのだけれど
やっぱり何かと気になるのだ。
彼は頑張りすぎるところがある。
仕事にしても、私との関係にしても。
何も常に私を笑わせなくてもいいのだ。
たまにはぶつけようのない何かを私にぶつけてきても
構わないのに。
でもそういうと彼はきっとごめんと本気で謝罪するだろう。
そうは言わせたくないのだ。
せめて私の前だけでも自然体でいて欲しいのに。
そんなことを考えながら過ごしていたらいつの間にか
夕暮れ時になっていた。
ベランダに洗濯物を取り込みに出ると、見事なまでの
夕焼け空がそこに広がっていた。
指先が冷えるのも、洗濯物がしけるのも気にせず
私はただただその壮大さに見惚れていた。
せめて彼もこの夕日を観ていたらいいのにな。
そう思った瞬間、携帯が静かに震えた。
『ねぇ、これから会えないかな?』
『なに、どうしたの?別にいいけど。』
彼からの電話に頬が緩む。きっと彼もこの夕日を眺めていたのだろう。
だって、夕日の中にいる時間と
好きな人のそばにいる時間はとても似ているから。
Posted by nico at
23:44
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2009年03月01日
How to spend certain weekend
日曜の昼下がり、あてもなくドライブへとでかけた。
特に目的もないけれど、ちょっと日常から抜け出したくて
車を走らせる。
優しい声色のボーカルとベースの低音が渋く響くアルバムは
僕のお気に入りの1枚。
ハンドルを切るたびにパーカーがシャカシャカと音を立てた。
車は進む。僕の思考は止まる。
何も不満や不安があるわけじゃない。
ただ、ただ1人になりたかった。
夏場はサーファーで賑わうビーチで車を止める。
ちょうど夕暮れ時で、カップルが堤防で語り合う。
僕も堤防に腰掛け、波の音に耳をゆだねる。
一定のリズムを刻む波の音を聞いていると、浮ついた心が
すこしずつ落ち着いてくるのがよくわかる。
初春の海風はやっぱりちょっと冷たくて
僕はパーカーのジップを上まできっちり閉めた。
夕日はまるで朝日のようでもあり、ゆっくりのんびり
僕を包み込む。
圧倒的な包容力に僕はもう何もいらないとさえ思った。
ちょっと疲れていたのかな。
ふとそう思ったときに彼女からプレゼントされたオールスターが
目に飛び込んできた。
急に彼女に会いたくなった。
『ねぇ、これから会えないかな?』
『なに、どうしたの?別にいいけど。』
愉快そうに受話器越しに笑う彼女の声と波の音が僕の耳にとろける。
さぁ、今週もがんばりますか。
Posted by nico at
21:54
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