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Posted by チェスト at

2010年12月13日

cappuccino



ハートで飾られたカプチーノを見て、不意に母のことを思い出した。

母は、いかにも田舎のおばさんで、社会人になったわたしが、
いろんな場所に連れて行くと、面白いぐらいはしゃいだ。

エステに連れて行けば、「お姫様になったみたい」と笑い、
映画を観にいけば、「お父さんとの初めてのデートも、映画だったのよ」
と少女のように頬を染め、
イタリアンのお店に行けば、「これ家でも作れないかしら?」と
真剣に悩む。

そんな母が、一番喜んだのが、このお店だった。
静かな間接照明が素敵な、珈琲の美味しいお店。
買い物の帰りに、わたしが案内すると、子供のように
目を輝かせながら、メニューを覗き込んでいた。

「ねぇ、この『カプチーノ』ってどういうもの?」
「そうねぇ、カフェオレみたいなものかな」
曖昧に答えるわたしを他所に、母は嬉々として、カプチーノを
注文した。

届いたカプチーノには、可愛らしくハートが飾られていた。
「あら、かわいい。ミルクで絵が描いてあるのね」
ニコニコしながら、カプチーノを飲む母は、まるで子供のようだった。

それから、わたしは仕事が忙しくなったり、彼氏ができたりして
なかなか母と出掛けることも、話をすることも少なくなってきた。

「またあのカプチーノが飲みたいわねぇ」
母のそんなつぶやきも、聴こえないほどわたしは自分の生活だけに
夢中になっていた。

そうこうしているうちに、結婚し子供も生まれ、わたしはますます
母と過ごす時間が少なくなった。
それでも母は、いつも笑顔でわたしを迎えてくれる。

ごめんね、お母さん。今度一緒に飲みに来ようね。
わたしは、心の中でそっとつぶやいて、カプチーノに口を付けた。

カプチーノは、今日も優しく、甘く、そして少しだけ苦い。  

Posted by nico at 22:46Comments(1)

2010年12月10日

The hand ties.



「みてみて、コレ!」
珍しく彼女がはしゃいでいる。
久しぶりにお天気のいい休日。僕と彼女は年末の雰囲気を味わいに、
ショッピングモールや、デパートを冷やかしてまわる。

どこもかしこも、赤と緑。そして陽気なクリスマスソング。
そして、ときおり顔をのぞかす朱色や「新春」の文字。
そんなものを冷やかしながら、のんびりと年末の雰囲気を味わっていた。

たちよったデパートで、ちょっとしたイベントを開催していた。
地元でモノヅクリをするアーティストの作品展。
芸術とか、アートとかよくわからない僕は、好奇心の固まりのような
彼女に腕をひかれ、ただぼぉっと眺めていた。

彼女の指差す先には、レースのようなアクセサリーが並んでいた。
繊細で、とても軽やかで。
はっきりいって、そういったものに興味のない僕でも、思わず見惚れた。
今にも壊れそうなくらい繊細なネックレスや、ふわりと飛んでいきそうな
ピアス。どれもこれも、温かく輝いていた。

「金糸で、編んであるんですよ。」
小柄で可愛らしい女性が、僕らに話しかけてくる。
きっと、このアクセサリーの作者なのだろう。

「全部、手編みなんですか?」
完全に、アクセサリーにとりこになっている彼女が、
頬を上気させながら、尋ねる。
少し照れくさそうに、でも誇らしげに女性は頷いた。

「素敵ねぇ。きらきらしてる。こんなにキレイなものを
 見たのは久しぶり。」
そう言って彼女は、ますます頬を上気させていた。

「このピアス、ください」
ぱっと出た僕の言葉に、彼女は目をくりくりさせている。
レースの様な、金のフープピアス。
紺色のハイネックニットが似合う彼女に、どうしてもつけて
もらいたくなったのだ。

女性が丁寧に、ピアスを包んでくれる。
その様子を、彼女は子供のように目をキラキラさせながら見つめる。

「どうしたの?珍しい」
彼女はとってもご機嫌だ。
「うん?ま、たまにはね。年末だし。」
「ずっと大切にするね。ピアスもあなたも」

包んでもらっている間、僕らはぎゅっと手をつなぐ。  

Posted by nico at 12:40Comments(0)